クビになり行き場のなかった僕を拾ってくれ、ずっと面倒を見てくれた親方に特別な思い入れがあった。
親方の妹さんにカメラを渡し、写真を撮ってもらう時、親方は察してくれたのか、すっとファインダーに写り込む。
親方も恥ずかしさを紛らわすためか、猫を抱っこしていて、顔は少しひきつっていた。

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そして帰る日の朝、中標津空港まで親方に車で送ってもらう事になった。
車の中で、どうしようもない寂しさと悲しさが胸を込み上げる。
ドナドナよりも、もっともっと悲しい曲が、僕の頭の中を駆け巡る。
お互いに無言の車の中で僕は必死に涙をこらえていた。

摩周湖

そんな中、親方が景色を見て「あれが○○だよ」と景色の名称を教えてくれた。
最後まで優しい親方であった。
そんな言葉に僕はさらに悲しみに拍車をかける。
空港に着いたころには冷静さを取り戻し、笑顔で親方と別れを告げる事ができた。

地元に帰った僕は、大きな大学病院で肺の検査を受け、肺気腫と診断された。
やはり乾草による肺のアレルギーが原因である可能性が高いという事になった。
これでもう2度と牧場の仕事はできない。
数ヶ月の服薬により、咳はやがて落ち着くようになり、日常生活にも支障をきたさない程度まで回復されたが、今でも風邪をひいた時は喉が非常につらい。
しかし、そんな症状もあの素敵な日々の代償であれば軽いものである。

終わり

 

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