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物乞い

今から数年前の出来事
マクドナルドの紙袋を持って、家に帰る道のりの中、見知らぬおじさんが話しかけてきた。
ほとんど何を言っているのかわからなかったが、格好を見る限りこじきのようであった。

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ずいぶんとまわりくどい言い回しをする人で「3日間なにも食べていない」とか「今日は水しか飲んでいない」とか言って、時折聞き取れない部分もあったので「え?」と聞き直したりして、延々と困ったような顔をして、僕に何かを訴えかけていたのだが、僕の持っているマックの紙袋に興味があったことに気付くまで、ずいぶんと時間がかかってしまった。

この人いったい何を僕に訴えかけているんだろうと考えながら、ひたすら聞くことに集中し、「で、いったい何なんですか?」と聞いても「拾ったものをいつも食べている」とか言っているので、自分が紙袋を持っている事なんてつい忘れてしまう。

道行く人が怪訝そうな表情で僕らのやりとりを見ては視線をそらして去っていく。
きっと僕も、いつもこうやって取捨選択をしているんだと思った。

ようやく相手の要求に気付いた僕は、しかたなく「今回限りだよ」と言ってマックの紙袋を差し出した。
すると「小銭が欲しい」と言い出した。
さすがにお金を渡すのは抵抗があるので断った。

「ちゃんと働かないとだめだよ」と言うとおじさんはすごく悲しそうな顔をしていた。
帰り際には地面を頭につけるぐらいにお礼をされた。

一見いい話にも思えるが、僕の対応はひどかった。
終始上からの立場でおじさんに接していた事を悔やんだ。

物を与えるか与えないかは個人の考え方や価値観により様々だが、小さい器の中で、あふれだす水を最小限に抑えながら、その中でしか泳げないちっぽけな自分が、何を人より上の目線で話せることがあるのか?

もしかしてそのおじさんは、どうにもできない病をもっているのかもしれない。

もしかしてそのおじさんは、どうにもならないしがらみを抱えてしまったのかもしれない。

不条理なこの世の中で、自分がいつこのおじさんのようになるかはわからない。

その夜、ひさしぶりに実家の母にメールをしてみた。
果たして僕の対応は間違っていたのかと聞いてみた。
相変わらず母からは的を得ない返答が返ってきたが、誰かに話して自分の中にある不純物を消化したかったのかもしれない。

そんな思いを抱えたままその後、モスバーガーに行って、100円マックなんかではない、ひとつ300円もするハンバーガーを買いに行った。
そうやって自分の中での整合性を保ちたかったのかもしれない。

あれから数年たった今でも、「ちゃんと働かないとだめだよ」といった時のおじさんの悲しそうな表情は、僕の脳裏にしっかりと焼きついていて、時折思い出しては自分が腹立たしくなってしまう。

今、あのおじさんはどうしてるんだろう。元気なのかな?
そんな事を考えながら、マックの紙袋を持っていつもの帰り道を歩きながら、考えるのであった。

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